精神障害を抱える方が、職場復帰後に覚えておきたいWRAPとは?

復職後にお悩みの方
WRAP
元気回復行動プラン
2021/7/19
2021/7/12

体調が良くないとき、何もする気が起きなかったり、行動する元気もなく、考えるのも難しい、という状況を経験したことはありませんか。

例えば、高い熱が出ている時に買い物に行くのが難しく、食料など買い置きしておけばよかった、と思うかもしれません。反対に、身体を温める毛布や着替えなどの洗濯が済んでいると、あぁ準備があってよかったと安心することもあるでしょう。

不調というのは心身ともに起こりえます。そして慢性的な困りごとの場合は、自分がどんな時に体調を崩しやすく、何をきっかけに回復するのかという気づきを高めることで、調子が乱れたときにも対応ができ、回復が早まります。そんな時に活用できるツールが、WRAP(元気行動回復プラン)です。

 

WRAPとは

WRAPは自分のために自分自身がつくるセルフヘルプツールです。

  • 調子の良い時の自分ってどんな人?
  • 調子を崩すきっかけは?
  • その対処法ってどんなものがある?
  • 自分自身で、自分にとって最善の行動がとれなくなったときどうする?

このような項目についてあらかじめリストにしておくことで、自分の人生をより豊かに生きることができるようになります。

また、WRAPの中で大切とされる考え方に「リカバリー」というものがあります。リカバリーは、障害があっても、夢や希望をもち主体的に生きること、自分の心の状態を安定させるコントロールができることです。WRAPでは、元気でいることの大切な5つの要素として説明されています。

 

①希望の感覚

どのような境遇におかれていたとしても、苦しみには終わりが来ると思えること、現状は変わると信じられること

 

②自分が主体となること

さまざまな環境からの制約はあっても、自分で選択するという責任を引き受けて、人生の主導権を自分の手に取り戻すことができること

 

③学び

自分の元気に自分で責任を持つとしたら、自分にはなにが必要なのか、なにが合っているのか、どのような選択肢があるのかを学ぶ必要があること

 

④自分のために権利擁護をする

人生の主導権をもち、主体的に学ぶことで、自分に必要なことを手に入れようとすることこそが大切であること

 

⑤サポート

主体的に生きるとは、自分が必要とするサポートを、自ら手を伸ばして得ること

精神症状から回復し元気に過ごし続けるためには、この要素を持つことによって未来を悲観し自己否定的にならず、自分の人生を大切にして生きていくことができるとされています。

 

 

バランスが崩れてきた?と思ったらWRAPを実践

WRAPは1冊のノートに書いてまとめていきます。大きくわけて2つのパートに分かれ、前半は自分が普段の日常生活で大切にしていること、こうありたい自分の理想のイメージについて書いていきます。後半は、調子を崩しやすいサインや、実際に調子を崩してしまったときにどう対処するかという具体的な方法を書いていきます。1冊を通して普段の体調管理や予防から、何かあった時の対処までカバーできる自分の取扱説明書のようなものです。

これを体調が良いときにまとめておくことで、実際に調子が悪い時にも何をすればいいか確認することができ、他者に助けてもらいやすくなります。

 

①元気に役立つ道具箱(ツールボックス)をつくる

WRAPでは、元気であるためにすること、または調子の良くない時にこれをすると気分が良くなることを元気の道具とよんでいます。調子を上向かせたいなと思う時に見て実行できるように書いておきましょう。

例)
1時間くらい走る
お気に入りの服を着る
雰囲気の良い喫茶店でコーヒーを飲む
友人の●●と会う
映画を観る

 

②いい感じの自分

こんなふうな感じでいたいという、“いい感じ”の自分のイメージが思い浮ぶような、言葉のリストを作ります。このイメージが、行動プランをつくり、実行するときの指針となります。調子のいい時の自分をイメージして書き出すのもいいでしょう。

例)
肩の力が抜けている
似合う服を着ている
好きな仕事をマイペースにしている
相手の気持ちを気にしすぎない
ポジティブにものごとを考えられる

 

③日常生活管理プラン

①②で準備ができたら、いい感じの自分で過ごせるような具体的な行動のプランを考えていきます。日常生活に取り入れたい行動、習慣にしたいことをリストアップします。

例)
早寝早起き(時間に追われず余裕をもって過ごせるように)
朝の散歩(太陽にあたってポジティブな気持ちにする)
仕事を始める前に今日の仕事の見通しを確認する(余裕を持つ)
昼ごはんは好きなものを食べる(午後のモチベーションになる)
夜は湯舟につかる(疲れをとる)
服は似合う色の服だけ買う
月に1回コーチングを受ける

 

④引き金に対するプラン

ちょっと調子が悪くなってきたかもしれない・・・という時に活用するプランです。何か落ち込むこと、怒りを覚えることなどのエピソードがあったとき、または自分で不調に気づいたときにどう対応するか書いておきます。

例)友人や信頼できる人に相談する
  もやもやを紙に書き出す

この引き金に早めに対処することでいい感じの自分から遠く離れないように対処できます。

 

⑤注意サインと行動プラン

引き金に対処しても少し調子が悪い状態が続くとどうなるか書いてみましょう。

例)過眠になってくる
  他人の目や気持ちが気になってくる

その時にどう対処するかも書いておきます。元気に役立つ道具箱が役に立ちやすいです。
例)過眠になってくる→運動して身体を動かしリフレッシュする
  他人の目や気持ちが気になってくる→人と会う予定はキャンセルして映画を見る

 

⑥深刻な乱れを知らせるサインと行動プラン

不調が続き、いい感じの自分から離れてしまい、本格的な不調になってきたときのプランです。まず、その時自分がどのような状況になるか書いてみましょう。

例)身体に力が入って眠れなくなる
  マイナスなことばかり考えてしまう
  食事を作るのが面倒になる

過去に不調だった時の状況を思い出して書くとよいでしょう。
また、このような状況では自分でもどうしたらいいか選択をすることが難しくなってきている可能性もあるので、その時の対処を明確に書いておきます。

例)
・身体に力が入って眠れなくなる→自律神経を整える呼吸、主治医に相談する
・マイナスなことばかり考えてしまう
           →ストレスの場から離れる ●●さんに相談する
・食事を作るのが面倒になる
  →お金がかかってもテイクアウトの利用や外食をする、家族友人や外部サービスに頼る

毎日とるべき行動や自分のケアの仕方などを明確な指示として書いておくとよいでしょう。

 

⑦クライシスプラン

いよいよ体調に混乱が生じて、自分ひとりでは対応しきれない状況になったとき、それをクライシス(危機)と呼びます。信頼できる人とあらかじめ話し合ってプランを作っておくことで、クライシスにも慌てずに取り組むことができます。

例)
・身体的な不調により、入院などの医学的介入が必要なとき
・クライシスな状況の時は、言葉を話せなくなる

この時、誰にどのような対応をしてほしいのかも書いておきます。

例)
・身体的な不調により、入院などの医学的介入が必要なとき
  →会社へ休むことの連絡を家族に入れてもらう
・クライシスな状況の時は、言葉を話せなくなる
  →家族から声掛けをしてほしい、Yes/Noで答えられる

また、クライシスを脱した場合のサインも記載しておくとサポートする人が分かりやすいです。

例)回復の兆しが出てきたら、言葉を話せるようになる

WRAPではこのように、日常生活から危機介入が必要な時までのプランと対応を考えることができます。また、調子が良い時に自分で考えることで、いざという時にどう対応するかも自分の意思を反映することができます。

 

まとめ

WRAPは、精神障害がある人のために作られたものですが、元気な人でも、誰にでも役立つツールです。ぜひいつも頼っている人など、かかわる人にも頼りながら自分のためのプランを作ってみてください。

購入可能なサイト

元気回復行動プランWRAP│COMHBO地域精神保健福祉機構