精神障害を抱えて「つらいな」と感じる理由として、病気や障害があることそのものだけではなく、生活全体に困りごとが広がることがあるのではないでしょうか。
病気やケガをしたら治療のために病院に行って医師を頼るように、障害に起因する生活上の困りごとがある場合には、「ソーシャルワーカー」に相談できます。
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ソーシャルワーカーとは福祉の専門職で、日本では「社会福祉士」「精神保健福祉士」という国家資格があり、この2つの資格を持つ専門職のことを「ソーシャルワーカー」と呼びます。日本ではあまり聞きなれませんが、アメリカやカナダ、イギリスなど海外では一般的に知られる職業です。
ソーシャルワーカーは、社会生活の中で生きづらさを抱えている人の相談にのり、よりよい生活のために必要な訓練や情報の提供など、その人が望む人生を実現していくために伴走してくれる専門職です。
社会的な困りごとを抱えがちな方の支援に当たっていることが多く、行政機関や病院、福祉施設に多く相談員として配置されています。現在では、スクールソーシャルワーカーや企業内ソーシャルワーカーとして学校や企業に配置されることもあります。
ソーシャルワーカーが大切にしている考え方として、「障害とは、個人の中にあるものではなく、かかわる環境との相互作用の中に生まれる」というものがあります。
分かりやすい例は、眼鏡です。
視力矯正できる近視を「障害」だとみなす人は少ないのではないでしょうか。今のように視力矯正ができなかった時代は、視力が低いことは視覚障害であるとみなされていました。しかし、今は眼鏡やコンタクトレンズといった道具を使うことによって、その障害度合いはとても少なくなりました。
また、朝体調が整いにくく、午後の方が調子が良い方にとっては、朝9時の出社はハードルが高くなります。しかし、フレックスタイム制が使えると、午前11時から仕事をして19時まで仕事をすることで、無理なくフルタイムで働くことができます。
この場合の障害は、朝起きれないことではなく、朝9時に出社しなければならないというルールとの相性の悪さによって生まれるのです。
このように、人が障害が持っていることが直接困り感につながるわけではなく、かかわる環境との相互作用によって大きく異なります。
ただ、社会の現状としては、眼鏡のような便利なアイテムがさまざまな困りごとに対して整っているわけではありません。フレックスタイム制などの働き方も、現在進行形で社会の中に浸透し始めているところです。
精神障害がある場合、気分の浮き沈みなどの症状により、身体の体調もなかなか整わず、安定して仕事をするのが難しかったり、その結果お金や人間関係の困りごとなどが出てくる場合があります。
そのような時、障害を医学的な障害としてだけ捉えるのではなく、本人の望む生活を大切にしながら、それを実現できるよう情報提供、訓練提供などのサポートをするのがソーシャルワーカーです。
ソーシャルワーカーに相談できることは、病気や障害に起因する生活上の困りごとに関することです。
障害や病気の診断や治療のことなど、医学的なことは医師など医療職がサポートする部分になるので、ソーシャルワーカーに相談はできません。障害による気持ちの辛さなど、生じる困りごとに関しての相談は可能です。
例えば、障害による困りごとで利用できる制度に関することです。
このような制度は非常に複雑で、インターネットに情報はたくさんありますが、自分がどの制度を利用できるのかや、その制度への手続き方法などを自分の力で調べるのはとても骨が折れます。
ソーシャルワーカーはそのような制度について相談をしたり、制度を利用する際の手続きなどのサポートを受けることができます。
また、相談だけではなく、生活や就労の訓練施設には支援員として配置されており、具体的な訓練・指導を受けることもできます。
障害や治療については医師や看護師などの医療者に、それ以外の生活についてはソーシャルワーカーに、と相談内容に応じて使い分けするとよいでしょう。
ソーシャルワーカーは、行政機関や医療機関、福祉施設などに多く配置されています。どこに相談したらいいかは、相談内容によって異なります。
相談したいことがざっくりしていて、どこに相談したらよいのか分からない場合、住んでいる地域の「保健所」に尋ねてみるとよいでしょう。保健所は、さまざまな制度の利用申請をする窓口でもありますし、地域に利用できる施設の一覧を入手できることもあります。
また、「基幹相談支援センター」は、地域で自立した生活を送れるように必要な支援や情報提供を行っている相談機関で、全国の市町村に設置されています。障害のあるご本人と、家族が利用できます。
保健所と基幹相談支援センターは連携し合って市町村によって各機関の役割や連携の仕方が異なる場合もありますので、どちらかの窓口に問い合わせると、次にどうしたらいいかアドバイスがもらえます。
地域の公民館のようなイメージで交流や相談ができる「地域活動支援センター」や、仕事と生活の両方について相談できる「障害者就業・生活支援センター」も全国に配置されています。
かかりつけの医療機関がある場合は、医療ソーシャルワーカーに相談するとよいでしょう。治療をしながらも自分らしい生活をするための相談や、自立支援医療や訪問看護など制度利用に関する相談ができます。
地域で利用できる、さまざまな福祉施設にもソーシャルワーカーは配置されています。
例えば、就職を考えた時に利用できる施設の1つに「就労移行支援事業所」があります。
就労移行支援事業所では、一般就労に向けた訓練をする施設ですが、一般社会で働くために必要なビジネススキルの訓練などだけではなく、障害特性を含めた自己理解の手助けや、障害があっても自分らしく働くための企業との調整などのサポートを受けることができます。
ソーシャルワーカーが専門とするのは、本人の望む生活を実現するために必要な情報提供や助言、訓練の提供です。
深い心理的な相談は臨床心理士や公認心理師、医療的な相談は医師になど他の専門職と使い分けましょう。
ソーシャルワーカーへ頼り方のイメージはついたでしょうか?
ソーシャルワーカーには、幅広い生活上の相談ができますが、単なる制度利用・調整をする職種ではありません。
まだまだ社会には障害がたくさんあり、眼鏡のような便利なばかりではありませんよね。それでも、障害名や病名に寄らず、その人らしい人生を送るためにはどうしたらいいか?を考え、伴走してくれるのがソーシャルワーカーなのです。
ソーシャルワーカーを上手に頼れると、障害があることによって手放しがちだった人生の主導権を自分の手元に戻して、少しずつ元気になってくる感覚があるのでは?と思います。
まだまだ制度も困りごと全てを網羅しているわけではないので、すぐに解決できることばかりではありませんが、障害特性など話しにくいことも一緒に考えながらどう進むか考えることができるので、ぜひ頼ってみてください。