発達障害でお悩みの方に知ってほしい、ソーシャルスキルトレーニング(SST)

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SST
発達障害
2021/11/5
2021/11/1

発達障害でお悩みの方に知ってほしい、ソーシャルスキルトレーニング(SST)

今回は、発達障害の方に向けてSocial-Skills-Training(以下SST)を紹介したいと思います。
SSTとは、Social-Skills-Trainingの略称で、日本語では社会生活スキルトレーニングと言います。(以前は社会生活技能訓練でした)我が国では、診療報酬として認可されている数少ない治療法の一つとなります。

対人交流の中で生じる困りごとを題材にすることを得意とした技法となりますので、特にコミュニケーションでお悩みの方はぜひ読んでみてください。

 

ソーシャルスキルとは

発達障害でお悩みの方に知ってほしい、ソーシャルスキルトレーニング(SST)

SSTは認知行動療法の1つに位置付けられています。
認知行動療法cognitive-behaviortherapyは、出来事―自動思考―感情―行動の相互関係に注目しており、認知(現実の受け取り方やものの見方)に働きかけて、心のストレスを軽減していく治療法のことを指します。

SSTは、米国のリバーマン博士により、精神疾患の方が地域で暮らすために開発された治療法です。統合失調症やその他の精神疾患の症状である陽性症状には薬物療法が効果的であると言われていますが、陰性症状には効果が得られないことがわかっています。
そして、SSTをはじめとした認知行動療法は、陰性症状に効果があると注目されています。詳しくは記事“うつ病の改善に有効な認知行動療法とは“をご参照ください。

昨今ではうつ病やその他の疾患に対しても効果が認められています。さらには学校教育や企業研修にも用いられているようです。汎用性の高いコミュニケーションのトレーニング技法と言えそうです。

次に、ソーシャルスキルを見ていきましょう。ソーシャルスキル(Social-Skills)とは、日本語では社会生活スキルと言いますが、日常生活の中で必要となる対人関係や平均的な認知能力のことを指します。これは、対人交流の中で、感情や要求を相手に正確に伝え、その後も関係を保つことができる技能のことです。

例を挙げると、“行きたくない食事の誘いを断る”や、“仕事の依頼をする”、“ありがとうと感謝の意を伝える”などが挙げられます。

本来、ソーシャルスキルは私たちが生活していく中で様々なモデル(親、教師、友人等)と関わる中で学び、獲得されるスキルです。しかし、精神疾患の方々は、比較的ソーシャルスキルが十分に備わっていないことが指摘されています。これは、症状の有無もありますが、社会スキルのモデルに出会う機会が不足していることが要因と考えられています。

ソーシャルスキルはいわゆる健常者と言われる者も、日常生活の中で振り返ることはほとんどなく、何か困難な状況に直面した際にはじめて意識されます。

例えば、結婚式のスピーチを頼まれた時がそのような場面となります。結婚式のスピーチを成功させるために、インターネットで調べたり、過去に参加した結婚式の、他の方のスピーチを思い出したり、動画をみたり、実際に練習し、誰かに聞いてもらうということはよく聞きます。SSTではこのプロセスを技法として取り入れています。

SSTでは、対人場面における様々な困難に対処するための技能を獲得するために、上記のように私たちが自然にやっている学習方法を、系統立てて進めていく技法なのです。SSTは、その方が困っている場面を再現し、ロールプレイで用いて練習します。リーダーが一方的に指導するのでなく、参加者全員で考え、複数出た解決策を参加者のモデリングを通し、本人が少しの努力で取り組めそうだという行動を選択し、練習を繰り返していきます。
注意点は、SSTは人を介した困りごとを課題に取り上げることが得意であるということです。ですので、券売機やATMの操作などの機械や物に対しての困り事や、メールのやり取りで困っているというような場合は、別の技法や解決方法を探す方が有効であるかもしれません。

 

SSTはどのような場面で役立つ?

発達障害でお悩みの方に知ってほしい、ソーシャルスキルトレーニング(SST)

SSTで訓練できる困り事について考えたいと思います。SSTは対人関係の中で生じる困り事を課題に取り上げることを得意としています。
発達障害の方に多い職場での困り事の中でも対人関係に関する内容に焦点を当てた例になります。

  • 残業を上手に断りたい
  • 飲み会を途中で抜けて帰りたい
  • 会議で上手に反対意見を伝えたい
  • 上司に報連相したい

これらはほんの一例になりますが、単にコミュニケーション問題と言っても、その要因は様々です。例えば、身振りや表情を正確に読み取れていなかったり、そもそもスキルを発動するタイミングが間違っていたり、苦手な情報伝達手段であったり、伝えたいことは決まっているが、関係性を壊さずに伝えるスキルを持っていなかったり等、その人によって異なります。SSTでは何が要因になっているのを分析し、それに応じた技法や解決法を身に着けていくこと大切です。

 

SSTを受けられる場所は?

SSTは、医療機関や福祉施設、就労支援の場、学校、職場など様々な場所で受けることができます。成人向けの場合、具体的には以下のような場所で受けられます。

  • 精神科等の病院やクリニック、訪問看護ステーション
  • 若者サポートステーション
  • 就労・生活支援センター
  • 就労移行支援事業所、就労継続支援A型・B型事業所
  • 自立訓練事業所
  • 地域活動支援センター
  • カウンセリングルームなど

私が以前勤めていたデイケアでは、テーマを変えてほぼ毎日SSTを行っていました。就職の面接の練習や主治医に変薬の相談から、デートの誘い方など多岐に渡るものでした。“困ったらSSTに出そう”を合言葉に、メンバーやピアスタッフでワイワイとトレーニングをしていました。

 

SSTのリーダーとは?

SSTリーダーとは、SSTの初級10時間研修を修了した者をいいます。
さらに熟練者になりますと、認定講師もいます。我が国には約130人おり、筆者もその一人です。

SSTを受ける場合には、初級を修了しており、できれば認定講師がいる施設をお勧めしたいと思います。SSTを受けることを検討されている際は、まずは主治医や支援者に相談し、通院先で受けることができるのか、受けられなければ、どこで受けられるのかを聞いてみるのも良いと思います。

 

まとめ

今回は発達障害の方に向けてSSTについて確認しました。SSTは本文でも触れたように、私たちが生活の中で習得していく技術を体系化して伝える技法です。

SSTには、失敗が保障された場で自身を助けるスキルの練習ができるというメリットがあります。SSTは、あくまで手段の一つとなります。

何に困っているのか“まずはやってみて”、自分や他の方と分析をして自分の助けとなるコミュニケーションスキルを身につけましょう。