発達障害者が仕事をするには、まず症状と特性、自分の得意不得意を明確にするのが最初の課題。その上で、就職する職種を考えたり職場内で理解を求めるというのが望ましい形です。
しかしながら発達障害には得意・不得意の差が激しく、コミュニケーションやチームワークが求められる職場でトラブルを起こしてしまいがちなのも事実。悪気はなくても「性格に問題がある」と見られてしまうことも少なくありません。
そこで障害者自身や障害者雇用を進める採用担当者向けに発達障害に向いている職種や仕事に役立てられるスキル、発達障害者が仕事を円滑にするためのポイントをまとめました。
目次
発達障害の仕事を考える上で、最初に考えていただきたいのが「障害の症状・特性」と「自分の得意・不得意」です。自分のことが分かっていなければ、障害者と仕事のマッチングという点でずれが生じるためです。発達障害は法律や医学で3つに分類されており、それぞれの症状に特徴があります。
【発達障害者支援法第2条】
この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。
■引用:発達障害者支援法
法律の条文では【自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害(自閉症スペクトラム・ASD)】と障害名が分かれていますが、似た特性や重複する症状が多いため米国精神医学会により「ASD(自閉症スペクトラム)」として分類されています。自閉症スペクトラムの特徴は主に3つです。
知能の遅れはないものの、特定分野で困難のある障害です。以下の習得と使用に困難を示します。
年齢に不釣り合いな注意力や衝動性、多動性を特徴とする障害です。以下の症状から社会生活の中で困難やトラブルになりがちです。
上記までに分類されない、チック症や行為障害、分類の難しい発達障害など、脳機能の不全による障害を指します。
発達障害は生まれつきの障害であり、知的障害を伴わないケースも多くあります。そのため普通の人に見えても、症状が原因で「変わった人」「自分勝手な人」と見られてしまう場合があります。
では、発達障害者に向いている仕事や職種とは何でしょうか。
発達障害は障害の別や症状はもちろん、個人により特性が違うため一概に「この職種が向いている」というのは難しいのが事実です。ただ障害の症状や特性などを見ていくと「どのような仕事なら向いている」というのが見えてきます。
ASDはコミュニケーションや対人関係で困難がありますが、得意なことには高い能力や集中力を発揮します。
≪症状や特性・特徴≫
≪向いている仕事≫
SLDは文字や文章の読み書きが苦手、若しくは数字の概念や計算が苦手というのが特徴です。学習障害は全てが苦手なわけではありません。そのため一概に向いている仕事を挙げるのは難しいところですが、「苦手なことが少ない職種」「代替手段のある仕事」と考えると良いでしょう。
≪症状や特性・特徴≫
≪向いている仕事≫
ADHDは障害名の通り「不注意」「多動性」により社会生活で困難がある障害です。多動性については社会生活上の困難でもありますが、メリットになる部分もあります。
≪症状や特性・特徴≫
≪向いている仕事≫
各障害の症状に応じて向き不向きは異なりますが、発達障害者は「ライフスキル」「ソーシャルスキル」「ビジネススキル」「その他の役立つスキル・資格」の4つに分けて身に付けるべきスキルを考えると良いでしょう。
【ライフスキル】
【ソーシャルスキル】
【ビジネススキル】
【その他仕事に役立つスキル・資格】
例えばSLD(学習障害)であっても、文章の読み書きは苦手でも計算能力が高かったり、その逆だったりということがあります。得意な部分を活かした資格を取ってみると、就職で有利になるでしょう。
また、ADHD(注意欠陥多動性障害)は、「落ち着きがない」ではなく「活発に動き回れる」と捉えることができます。注意力に欠ける特徴はありますが、ADHDの人が営業成績トップという事例もあるほどです。
そしてビジネスや仕事以前に大事なのが、社会人として必要な「ライフスキル」「ソーシャルスキル」。就労移行支援施設などではソーシャルスキル・トレーニング(SST)を行っていますので、就職を検討するならぜひSSTを受けておいた方が良いでしょう。社会人として対人関係を良好に保ち、自分のことは自分でやるというTPOや年齢に適した行動を学べます。
発達障害は特定の分野において高い能力を発揮することもあり、ハリウッドで活躍する俳優やTVでよく見る有名人も発達障害だとカミングアウトした方は多くいます。より身近な事例として、発達障害を持つ方が実際に職場で活躍している事例をご紹介します。
神奈川県にある「富士ソフト企画株式会社」は、Web関連や印刷関連、農業など、幅広い分野で事業を展開しており、障害者雇用を積極的に進めている会社です。
富士ソフト企画株式会社は過去に高齢・障害・求職者雇用支援機構の「発達障害者のための職場改善好事例集」で最優秀賞を受賞しており、具体的な事例として以下のようなものがあります。
発達障害の従業員の特性を活かすことで納期を短縮
これは発達障害者の得意とする能力を上手く活かした良い事例と言えます。
発達障害の症状によっては、一つのことにこだわりすぎてしまう面があります。それを回避するためのプログラムを組むというのは、障害の有無に関係なく人材の有効活用として見習うべき方法と言えるでしょう。
発達障害の仕事は「得意を活かす」のがポイントですが、実際のところ不得意が原因で仕事だけでなく社会生活全般で困難な場面は多くあります。
そのため、発達障害の仕事は「自分の障害、症状を理解する」、「職場の理解を得る」という2点の対処があってこそ成り立つと言っても過言ではありません。
特に発達障害である本人なら、「工夫」と「対策」で仕事で生じる不得意をカバーしていくと良いでしょう。
発達障害は見た目では分からない症状を持っていることも多いため、発達障害の仕事では周囲の理解や協力も必要です。そのため発達障害者を雇用する企業側なら、国や自治体が運営する支援機関を大いに活用することをオススメします。
採用段階から雇用後の職場定着に至るまで、専門のノウハウを持った人たちによるサポートを受けられますので、会社独自の施策や労働環境を構築するより効率よく障害者雇用を進めることができます。