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近年、精神障害がある方の就職率は年々上昇しています。令和2年の「障害者雇用状況」集計結果によると、880160人の精神障害のある方が雇用されており、増加率も他の障害に比べて高くなっています(前年比12%増)。この集計結果は雇用者の中でも精神保健福祉手帳保持者の数なので、手帳を持っていなかったり、クローズで就職されている方を含めるともっと多い数字になるでしょう。
一方で、せっかく就職をしても定着率が低いのも精神障害のある方の就職の特徴です。精神障害のある方は、3か月定着率が約70%、1年の定着率に至っては約50%まで下がっています。(障害者雇用の現状等 平成29年9月20日 厚生労働省職業安定局)
どのような状況や理由で仕事を続けることが難しくなっているのでしょうか。いくつか見ていきましょう。
精神障害のある方の離職の中でも、突出して定着率が低いのが、障害をクローズにして一般就職をした場合です(厚生労働省職業安定局 H29障害者雇用の現状等)。
このグラフを見ると、1年の定着率が27.7%とかなり低くなっています。
背景としては、障害をクローズにすることから合理的配慮を求められない、本人としても何かあっても職場に相談先がないなど、職場とコミュニケーションをとることで職場環境の調整を求めることが難しい状態となります。結果として、体調が辛くなった時にも無理をするか、もしくは休まざるを得ない状況となり、理由もきちんと相談しにくいことから人間関係でも難しさが生じ、離職となることが多いようです。
まず、就職する前の時点で、就職するにあたって障害による体調の波が安定していない、体調管理やその必要性に対する認識が十分ではなかったという場合です。
早く働かなければと気持ちが焦ってしまったり、体調もよくなってきたな、と服薬を自己判断で中止してしまうことがあるなどです。自分の体調やキャパシティの認識が甘いために、ゆっくりと業務に慣れていった方がいいところをいきなり全力で取り組んだりしてしまう、ということも体調を崩す原因になります。
また、そもそも精神障害は体調が不安定になりがちであるということを企業側が認識できておらず、時短勤務が妥当な場合でもフルタイムを打診するなどのミスマッチが起こることもあります。
障害をオープンにして就職していても、うまく合理的配慮について相談できていなかった、もしくは職場の理解が不足していた場合です。
障害者雇用を前提とした採用面接の場合には、「何か職場側が配慮すべき点はないか」と合理的配慮について質問されることが多いです。そこで、内定になりたい気持ちや、自分自身の自己理解の不足から「合理的配慮は特に必要ないです」と言ってしまったり、企業としても精神障害のある方の雇用経験が少なく、どのような配慮をしたらいいのか検討がつかないまま業務へと入ってしまうことがあります。
その結果、その人に合った合理的配慮の調整ができないままの環境となってしまい、見直される機会もないと、本人がただ会社に合わせて頑張る状況となり離職してしまうケースです。
業務上、困ったことがあった場合や、仕事を続けるにあたって気持ちを吐露したいときに話せる相手がなかなかいない、という場合です。
職場であれば、何かあったときには上司が相談相手になることが多いと思いますが、困ったその時にすぐに声かけできる環境ではなかったり、作業場所が離れてしまっている、定期的に話ができるような状況ではない場合は、困りごとを抱えがちになってしまいます。
また、プライベートでも、家族や友人、主治医、就労支援者など相談できる相手がいない、もしくはなかなか会う機会やそういった相談ができる関係性ではないといった場合は、いざという時の拠り所がなく、対応できる柔軟性が低くなってしまいます。
また、相談相手がいたとしても困ったときには自らSOSを出せるかどうかということも大切です。自分で何とかしなければ、人を頼ってはいけない、できていないところを見せることができない、などの気持ちが強いとどうしても一人で対処しようとしてしまいます。結果としては一人で抱えきれなくなり体調を崩し、離職してしまう、というケースです。
仕事をする、ということは、実はたくさんの要素が組み合わさって成り立っているという理解が必要です。体調管理や自己理解、他者とのコミュニケーション、職場環境、1つ1つが大切ですが、1つだけに取り組んでも上手くいかず、全ては相互作用で成り立っています。
こういった就職に必要なスキルや要素について学ばず、向き合う機会を持てずに気持ちだけで業務に入ってしまうといざ困ったときに適切な対応ができず、うまくいかなくなり、結果として「自分はやっぱりだめなんだ・・・」と自己肯定感が下がってしまうことに繋がってしまいます。
これを読まれているあなたがもしも、これまで就職で上手くいかなかった経験をお持ちであれば、その時何が足りなかったか、何が見えていなかったか、何が自分と合わなかったのか考えてみてください。1人ではうまく考えるのが難しい場合は、ぜひ就労の支援をしてくれる機関や施設を頼ってみてください。
むしろ積極的に他者を頼っていくことをおすすめします。客観的な意見ももらいながら、「障害がある自分だから…」という気持ちを少し手放して、俯瞰して考えることでこれまで見えなかったことも見えてきます。
企業側も、精神障害のある方の雇用が増えてきたとはいえ、対応のノウハウが蓄積しておらず、まだまだどのような環境調整や合理的配慮をしていけばいいのか手探りなところも大いにあります。そういった場合には、遠慮せずお互いに働きやすくなるためには、もちろん伝え方には配慮しながらも、困りごとはどんどん自分から発信して一緒に環境を作っていこうという姿勢が必要になります。
自分に合った就職先を選んでいくためには、企業側の受け入れ態勢について調べると同時に、「自分に合った環境や仕事はいったいどんなものなのか」整理しておくことが大切です。そこが整理されていると、採用面接や入社をしてからも「自分は●●だから××してほしい」など必要な相談をすることができます。
上手くいく場合も、上手くいかない場合も、どちらか一方だけが悪いということは少なく、お互いの相互作用の結果であることが多いので、双方が工夫していけることは何かを話していくことができるか、というのが大きなポイントとなります。
その話ができるかどうか、という部分は採用面接の場が一番初めに確認できる場面となるでしょう。気になることはどんどん質問して、お互いに気持ちよく働けそうかどうか、自ら積極的に確認してみてください。