うつ病から職場復帰をするためには?(ご本人向け)

復職をお考えの方
うつ病
職場復帰
2021/4/30
2021/6/10

うつ病から職場復帰をするためには?(ご本人向け)

はじめに

近年、メンタルヘルスの不調により、会社に行くことができなくなった方が増加しています。またコロナ禍もあって益々増えていくことが予想されます。さて、休職から職場復帰までの手順を皆さんはご存じでしょうか。本記事では、休職から、復職に至るまでの一般的な期間や、流れ、かかわる職種の説明をさせていただきます。
復帰までの期間は一般的にはどのくらいかかるのか?
おおよそ3か月から半年ほどの期間を要すると言われており、
休職開始→休養→リハビリテーション(リワークプログラム)→復職という流れが一般的です。

「3か月は長すぎるのでは?」
と疑問に思う方もいるかと思いますが、心身の休養を図り、リハビリテーションを行いながら、会社と調整を図りながら復職を目指すというのは案外時間を要します。
また今までの仕事のやり方を振り返り(内省)、変わること(行動変容)、報告書等が求められますので、むしろ急いで準備をしなければならないと感じています。ただ昨今では1か月ほどで職場復帰をしてほしいと考える会社も増加しており、復帰までの期間はご本人さんや、ご本人さんを取り巻く環境によって変化してきているのが現状です。

 

職場復帰までの主なプロセス

うつ病から職場復帰をするためには?(ご本人向け)

それでは、休職となってから、復職に至るまでのプロセスをご説明します。

1.休養

物理的、心理的に仕事から距離を置き、心身の回復を図ります。ここでは、十分な休息をとることが重要となります。場合によっては入院が必要な方もいらっしゃいます。

2.支援施設でのリハビリテーション

十分な休養をとることができたらリハビリテーションとしてリワークの役割となります。リワークとは、メンタルヘルスの不調により、会社に行くことができなくなった方を対象にした、復職支援のことを言います。実際にはどのようなプログラムを行っているのか東京リワークセンターでのプログラムを例に説明していきます。

①身体状況(メディカルチェック)

身長、体重、体脂肪率や水分率などを毎日測定し、正常値に近づけます。
“生活リズムを整えてください”というだけでは、生活を見直すことができなかった方々が休職に陥りやすい傾向にあります。まずは、現状を数値で見える化を行い、その上で、職業人としての生活を見直します。
Speedら(2019)が、体脂肪量、除脂肪量、身長の3要素とうつ病の関連について調べた研究では、脂肪量を減らすことでうつ病のリスクが低下することが示唆されています。実感ベースでの話ではありますが、当リワークセンターでも健康的な体形で休職された方は少ないように思います。亀廣聡先生(ボーボット・メディカル・クリニック院長 精神科医)は、「内臓脂肪からは炎症を引き起こす物質が分泌されていて、この炎症が抑うつ症状の一因になることがわかってきており、メンタル不調の人のほとんどは、メタボかやせすぎで、マッチョな人はまずいない。」と、著書でお話しされています。

②勤怠

会社の人事担当の方に相談を受けるときに多いのが、『勤怠』についてです。毎日決まった時間に出勤ができること、定時までいることが安定していないと、なかなか仕事を振ることができないということがあるようです。いわゆる9時から17時まで会社にいることができる体力が必要です。またその体力を維持するために症状管理はもちろん、睡眠時間などの生活リズムの管理も大切です。決められた日、時間に決められた場所に来ることができることを安定させることをまずは目指しましょう。

③機能訓練

リワークの参加状況が安定してきたら、業務遂行能力についての振り返りを行います。様々な作業を通して、作業への集中度、休息の取り方、業務遂行のムラ、時間管理能力など、仕事をする上での機能の振り返り、修正を図ります。東京リワークセンターでは、個別の作業、集団の作業を通して、個人で発揮する能力と、コミュニケーション能力をはじめとした、他者とのかかわりの中で必要となる能力のトレーニングを行っています。

④内省

心身の健康を取り戻しただけでは復職やその継続が難しいことがあります。
このことを理解していないと、何度も休職することになり兼ねません。そのようにならないためにご自身の仕事の仕方、考え方、仕事の振り方・受け方を振り返り、修正することが重要です。内省をしたうえで、今後どのように働いていくのか、同じ問題に直面した際に、どのように解決していくのかを考えていきます。

しかし、頭の中で考えているだけでは、行動変容は難しく、机上の空論になり兼ねません。そこで、大事になことは、ご自身の仕事を振り返る機会を作ることです。リワークプログラムでは、様々な作業を通して、模擬的な職場を作り出します。その模擬的な職場でご本人さんがどのように考え、どのように振る舞うのかをご本人さんが自覚する機会を提供し、さらにスタッフが評価しています。そのうえで、どのように内省していくのか、再発予防のためのレポートをまとめていくのかをスタッフと考えていきます。
東京リワークセンターでは、様々な作業を通して、自己分析、検証をして報告書を完成させたのちに復職という流れになります。

3.会社との交渉

多くの会社では、産業保健スタッフ(保健師や看護師、カウンセラー)、産業医と復職の手続きを進めます。さらには、上司や人事とのやりとりがある会社も多いです。
では、主治医と産業医の違いを確認していきましょう。主治医は、ご本人さんの疾病性(病気について)を診ています。つまり、病気を治す、付き合うという観点で、今後どのように生活していくのがよいのか、仕事をしたらいいのかを指導します。
場合によっては、休職、リハビリテーション、復職の必要性の診断をします。産業医は、ご本人さんの事例性を診ます。この人が働けるのかという観点で観ています。つまり、病気や症状の有無の視点は優先事項としては低くなることもあるようです。つまり、症状があっても仕事ができるのかを中立的な立場で診ています。その意見を持って、いつ復職するのかという話が進んでいきます。

4.通勤訓練などの会社でのリハビリテーション

復職のめどが立ってからの流れも会社によって多種多様です。いわゆる通勤訓練、リハビリ出社、時短勤務を経てから復職するという流れを踏む会社もあれば、そういった手続きを踏まずに、初日から制限なしで復職するという場合もあります。東京リワークセンターの患者さんでは、前者の方が復職を継続できている方が多いように思います。
ただ、注意しておきたいことは、会社は自身の労働を提供し、対価を得る場所です。厳しい言い方をすると、基本的には、会社は治療やリハビリテーションをする場ではないことを認識しておきましょう。

 

支援施設を活用したリハビリもオススメ

うつ病から職場復帰をするためには?(ご本人向け)

では、その理由についてお話します。厚生労働省からの報告によると、うつ病の再発率は60%といわれています。さらに、2回うつ病にかかった人では70%、3回かかった人では90%と再発率は高くなます。再発率が高い、慢性の病気と言えるでしょう。
また、日本うつ病リワーク協会の報告では、精神疾患による休職後に復職した方の復職後の就労継続状況を検討した研究で、リワークプログラムを利用せず復職された方は、リワークプログラムを利用して復職した方と比較して再休職のリスクは1.89倍というデータがあります。

つまり、うつ病は再発すればするほど再発率が高まること、リワークプログラムを利用せずに復職した方は再休職のリスクが高いということがわかります。
リワークプログラムを利用するメリットとしては、一人でリハビリテーションをすることの難しさが挙げられます。リワーク施設を利用しないとなると、会社との交渉も一人となります。どのくらい休むのか、いつ復職するのかという話に重きが置かれてしまい、自分の病気や休職原因について振り返ることが後回しになりやすく、なかなか内省を深めることができないことが考えられます。

結果、同じ理由で再休職に至る場合もあります。また、上記でも触れましたが、リワークを利用することで、仕事をする際の考え方のクセや思考パターン、コミュニケーションの取り方を実践的な場で修正することができます。また、他の患者さんと交流を図れることもリワーク施設の利用を勧める理由の一つとなります。患者さんと交流することによって、ご自身の振り返りにつながります。ピアカウンセリングにも似ているかもしれませんが、モデルケースもいれば、反面教師もいます。自分と行動パターンが似ているという気づきもあります。他者との交流を通して内省を進めることがとても重要になるのです。

 

まとめ

リワークに携わる者の視点での話になってしまいましたが、一人で復職を目指すことは難しいと思います。症状がある中で、自身の生活を立て直し、いつ復職するのかを主治医、産業医、人事、自分、家族と交渉しながら、着地点を定めていくという過程が必要となります。実際に病気がある中で、一人で進めていくことは大変な作業です。「餅は餅屋」という言葉がありますが、専門家を上手に使いながら、進めていくことが再発リスクを下げる要因になると思います。