うつ病になっても放置する人が増えている?放置した場合どうなってしまうのか?

自分の症状を知る
うつ病
2021/7/30
2021/7/12

皆さんは自身のメンタル不調を感じた時、どのような行動をとりますか。

心療内科や精神科を受診する方もいれば、受診のハードルが高く、治療を始める決心がつかなかったり、そもそも治療は必要ないと考えたりする方もいるかもしれません。本記事では、早期にうつ病治療を開始することの重要性を改めて考えていきたいと思います。

今回、用意したデータの中に厳しい内容のものもあるかもしれませんが、正確な情報を知ったうえで、うつ病とどのように向き合っていくか考えていただく一助となればと考えております。

 

 

なぜうつ病を放置してしまうのか

それでは、うつ病を放置してしまう要因を考えたいと思います。厚生労働省の「こころの健康についての疫学調査に関する研究」(2007)の報告を参考に見ていきましょう。
soukatuhoukoku19.pdf (khj-h.com)

 

①受診率の低さ

メンタルヘルスの障害がある方のうち、実際にどのくらいの方がメンタルヘルスに関する治療を受けることが出来ているのでしょうか。

報告によると、生涯で何らかの精神障害(気分、不安、物質関連障害)を経験していた方のうち、メンタルヘルスに関する受診・相談の経験がある方の割合は30%弱であることが示されています。メンタルヘルス全般でこの低い数値ですので、うつ病の受診率も低いことが容易に想像できるでしょう。

 

②偏見の問題

では、受診率の低さはどのような要因が考えられるでしょうか。
近年では、少しずつ緩和されてきていますが、偏見の問題が治療の遅れの要因の一つとして考えられているようです。

報告によると、メンタルヘルスについての相談・受診に対する抵抗感について尋ねた調査では、回答者の約3割は専門家を受診しないと回答し、1割は専門家に対して心を開いて話せないと回答しています。さらに、回答者の半数近くの方が、専門家を受診したことを友人に知れたら恥ずかしいと答えています。

4割以上の方が安心して受診や治療できていないことが窺われます。

 

③治療開始の遅れ

さらに、この報告の追加調査では、自身のメンタルヘルスの不調を感じ取ってから実際に受診までに4週間以上かかった方を対象に、受診が遅れた理由を調査しています。

そこから受診行動の阻害要因として、「自分で対処したかった」という信念や「自然に改善すると思っていた」「治療が効果あるとは思わなかった」 「どこにゆけば良いかわからなかった」という病気や治療に関する情報不足、「他人がどう思うか心配だった」 という周囲の偏見の問題があげられていました。
様々ではありますが、こういった理由から治療が遅れてしまっているようです。

以上の項目からも言えるように、他人だけでなく、精神疾患を有している自分自身に対しても、偏見は少なからずあり、そういった要因が医療機関の受診までに時間を要したり、受診しないという選択肢につながっているようです。

 

 

“うつ病は心の風邪”なのか?

一昔前の“うつ病は心の風邪”という認識も改めた方がいいかもしれません。
この記事を読んでいる方であれば“風邪”という表現では足りないことがわかると思います。

“心の風邪”というよりは“心の複雑骨折”の方が近いのではないでしょうか。
うつ病の原因は必ずしも一つではなく、様々な要因が絡み合っていることが多いです。
養生したら治るわけでなく、認知や行動を変容しないと何度も再発してしまうことがあります。

 

 

うつ病を放置するとどうなるのか

前項のような要因により、うつ病を放置してしまうとどうなるのでしょうか。
今回は、“うつ病を放置する”=“治療の有無にかかわらず、症状が残っている”という考え方で解説をしていきたいと思います。

以下に示すデータは、少し厳しいものもあるかもしれません。
しかし、うつ病の症状を放置する怖さを、客観的なデータで確認し、その上でうつ病とどのように向き合っていくか考えていただけたらと思います。

再発のリスクについて考えていきましょう。
うつ病の再発リスクの因子に残遺症状が含まれています。残遺症状とは、うつ病の諸症状がおおむね回復したが、後遺症のようにいくつかの症状が残った状態を言います。
例としては、不眠・過眠傾向、意欲低下、集中持続困難、易疲労感等が挙げられます。

この残遺症状を放置すると、再発の可能性が高まってしまいます。
どのくらい再発のしやすさに影響を及ぼすのでしょうか。Paykelら(1995)は、完全寛解と残遺症状がある部分的寛解後のうつ病の再発率を比較しました。
結果は、部分的寛解群は、完全寛解群の3倍再発率が高まっていることがわかりました。

また、再発までの時間にも影響を及ぼしていることがわかっています。Juddら(1998)の報告では、残遺症状がある部分的寛解群は完全寛解群の3分の1未満の期間で再発してしまうことがわかっています。

さらに、うつ病は再発を繰り返すたびに再発のリスクが高まっていきます。
厚生労働省は、1度うつ病にかかった人の再発率は60%、2回かかった人では70%、3回かかった人では90%と報告しています。

なぜ再発を繰り返していくと、再発のリスクが高まっていくのでしょうか。
Kendlerら(2000)によると、再発を繰り返すと、ストレスとは関係なく抑うつ症状が発現することがわかっています。つまり、再発を繰り返すほど、要因がわからなくなり、予防が困難になってしまうのです。

要点をまとめると、“うつ症状を放置すると、症状の無い人よりも再発率が3倍高くなり、再発に至る期間が3分の1と短くなる。さらに再発を繰り返していると、高いストレスなどの原因無しで再発をしてしまう”ということになると思います。

以上のデータからも言えるように、うつ病は、放置しない・発症後に症状をきちんと取りきることがとても大切となります。

 

 

受診するタイミングは?

ここまではうつ病を放置するリスクについて考えました。
実際にどのタイミングで精神科を受診すればいいのか悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

精神科医の樺沢紫苑先生は、受診が遅くなるほど症状は悪化することが多く、治療期間は発症から受診までの期間と同じくらい必要とすることが多いと話しています。

つまり、治療開始が遅れるほど、治療期間も長くなってしまうのです。
精神科の受診はハードルが高く、タイミングを計っている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、治療が遅れるデメリットと、受診をすることのデメリット(費用や時間など)を考えた際にどちらが大きいでしょうか。また、受診をして大きな問題がなければ、安心することもできると思います。現在、受診を悩まれている方がいましたら、できるだけ早めに受診することをお勧めします。

 

 

まとめ

今回は、うつ病の症状を放置することによるリスクをお伝えしながら、うつ病の早期治療・症状を取りきることの重要性について改めて考えていきました。

もしかしたら、受診のハードルが高く、治療を始める行動がとれていなかったり、治療の途中で職場や家庭に復帰をしようとしている方もいるかもしれません。

しかし、本記事で説明したように、うつ病を放置することによるデメリットもわかっています。現在受診を悩んでいる方はぜひ早期に受診をしていただき、現在治療中の方は、主治医や支援者と相談しながら焦らず治療を進めていただけたらと思います。