精神障害を抱えている方が起こしがちな仕事のミスの傾向とは?(後編)

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発達障害
2021/5/18
2021/5/24

精神障害を抱えている方が起こしがちな仕事のミスの傾向とは?(後編)

仕事をする上でミスを防ぐことは難しいものです。しかしながら、ミスが発生する要因を分析したり、その対策を立てたりすることでうまく防ぎ、損害を少なくすることはできます。
今回は認知機能に焦点を当て、精神疾患を持っている方の、仕事で起こりがちなミスとその対策を前後編で考えていこうと思います。本記事である後編では、実際に生じやすいミスとその対策をご説明いたします。

精神障害を抱えている方が起こしがちな仕事のミスの傾向とは?(前編)

 

仕事上のミス5選

精神障害を抱えている方が起こしがちな仕事のミスの傾向とは?(後編)

精神疾患を持っている方の特性や、置かれている状況によってどんなミスが生じやすいのかとその対策についてみていきたいと思います。

 

①聞き間違い

『指示されたことをきちんと遂行したはずなのに、全然違うことをしてしまった』という経験がある方もいるでしょう。
原因の一つに、視覚的、聴覚的に出された指示を正しく理解できていなかったり、記憶できていなかったりしている可能性があります。

ここでの対策としては、指示を受けた際に、指示の内容を確認することが大切です。方法は“反復確認“”要約確認“があります。指示を受けた際に、自己解釈で仕事をしてしまうと、全く違う指示が入っていたことがあとから発覚してしまう可能性があります。支援者と練習する機会を設け、ソーシャルスキルトレーニング(SST)などの体系化されたコミュニケーション練習法を使ってもいいかもしれません。
次に、五感(視覚、聴覚等)について触れていきます。五感から情報を受け取る際にどのような方法だと頭に残りやすいのかを分析することも聞き間違い対策の一つとなります。例えば、聴覚的な情報(口頭で指示を受ける)は苦手だが、視覚的な情報(文章で指示を受ける)は頭に残りやすいという方は、電話での応答を少なくし、文書やメール、概念図を使って指示を仰ぐとよいかもしれません。反対に、視覚的情報が苦手な方は、口頭で指示を受けることがよいかもしれません。

また、そもそも聞こえていない、見えていない可能性も考えられます。聴覚、視覚が正常に機能しているかを確認することも必要かと思います。場合によっては、今まで自覚がない状態で生活をしており、仕事をする中で発覚することもあるかもしれません。眼鏡をかけただけで解決ということもあるかもしれませんね。

②ケアレスミス

認知機能が低下すると、集中力が下がり、記入漏れに気がつかない、計算ミスをするなど、いわゆる「ケアレスミス」が引き起こされる可能性が高まります。

ここでの対策をみていきましょう。まずは脳機能に注目します。私たちは起床してから寝るまでにいくつもの選択をしています。
仕事に着ていく服や何を食べるか、空いている席に座るのか、夕ご飯はどこで食べるかなどの選択をしているのです。この選択に思考や感情をコントロールする力“ウィルパワー”が使われていると言われています。ウィルパワーは一定量存在し、どんな選択や思考でも出所は同じです。
つまり、あらゆる選択をすることでウィルパワーはみるみる減り、脳疲労が起こります。日常業務や会議をこなし、やっと自分の仕事ができる夕方には脳疲労がピークになっています。この時間に複雑な業務を取り入れることは自分でミスを誘発していると言っても過言ではありません。ウィルパワーについての対策は、増やすか節約するかの2択です。朝のルーティンを少なくしたり、業務を自動化することで選択の機会を減らし、ウィルパワーを節約することができます。さらに、複雑な業務やたくさんの選択を迫られる仕事をウィルパワーがたくさん残っている朝の早い時間に設定したりすることでケアレスミスを減らせる可能性が高まります。

③優先順位がつけられない

大事なものとそうでないものの区別がつかなくなったり、仕事の効率が悪くなったり、情報を素早く処理できなくなることがあります。それにより、仕事の指示を受けた際に、優先順位の判断がつきにくくなります。
例えば、Aという業務を進めていた時に、Bという指示が入りました、しかし、Aという指示を受けているからAをやればいいのかなとAを続けてしまいます。指示を出した上司としては、Bを優先的に進めてほしかったなんてこともあります。

この対策としては、Bの仕事を受けた時点で上司に優先度の高い業務を確認しましょう。指示された業務ごとに締め切りや納期を確認する習慣をつけておくこともいいかもしれません。同時に複数の仕事を進めていくのではなく、優先度の高い業務から順番に、確実に遂行していきましょう。さらに、順番を決めた業務をメモで残しておくことで、思い出すために使う時間や、その際の脳疲労を防ぐことができます。

④同じミスを繰り返す

これは、精神疾患を持っている方はネガティブな感情が頭に残りやすいという特性が関連していると言われています。例えば、仕事でミスをして上司を怒られたとします。この時ミスをしたことよりも、“怒られたこと”に焦点が移りやすくなります。それにより、問題解決の目的が『ミスをしないようにどうするか(仕事優先)』ではなく、『怒られないようにどうするか(自分の気持ち優先)』という内容にすり替わってしまいます。さらに、このような状況に陥らないように逃避・回避行動が頻回に生じるようになってしまい、ますます挽回の機会が遠のいてしまいます。

この記事を読んでいる方の中に、もし、精神疾患を持っている方が部下にいるという方がいましたら、本人が『怒られないように』という対処行動をとるのではなく、失敗からも学べるような環境を整えていただきたいです。
仕事ですので、失敗してもよいというわけではありませんが、失敗しても、挽回できる環境作りも、本人の仕事の効率を高める要素の一つになるのではないかと考えます。

⑤職場の空気を読めない

精神疾患を持っている方の特性として、相手の心の動きやその場の状況を察することが苦手なことがあります
。極端な例かもしれませんが、怒られた上司に間を置かずいつも通りの態度で近づいて、『さっき怒られたばかりなのに、すぐに質問してくるとは何事だ!反省しているのか?』とさらに上司の怒りを買ってしまうなんてこともあるのではないでしょうか。

必ずしも空気を読むことが大切とは言いませんが、上述したように怒られてすぐに平然と質問をするという行動は空気が読めないばかりか、場の空気を悪くしているとも言えます。対策としては、会話や社会的マナー・ルールのマニュアル化が挙げられます。精神疾患を持っている方は抽象的な指摘を理解することを苦手としていますので、言葉にしてはいけないことや、時間でルールを作るなど、できる限り具体的なマニュアルを作っていきましょう。以下の例を参照してみてください。

「注意を受けた時のマイルール」(例)

  1. 注意を受けてから10分間はその人に話しかけない
  2. 何を指摘されたかを書き出す
  3. ミスが起きた原因を書き出す
  4. 次に同じことが起きた際の対処を書き出す
  5. どうしてもわからないことがある場合は、「今話しかけてもよいでしょうか?」と確認する(別の人に聞くことができるとなおよい)

 

 

まとめ

今回は、精神疾患を持っている方が引き起こしやすい仕事のミスとその対策について認知機能障害に焦点を当てて説明しました。

各項目で説明した仕事におけるミスは、誰しもが脳疲労時に起きやすいことかと思います。しかし、精神疾患を持っている方は、それ以上に“ミスを起こしやすい状態”になりやすいという特徴があると言えます。そのため、脳が疲れやすく、ミスを引き起こしやすい状態にあるということをご自身が把握しておく必要があると思います。

自分の病名や認知機能障害を特定することも大切かもしれませんが、本人が自身の特性を自覚し、それを言える場、時間を確保できていることの方が大切だと思います。
そして、私たちが思っている以上に本人さんは、自己肯定感や自己効力感が低い場合があります。そのため、精神疾患を持っている方が部下にいるという方は、本人の話を聞く時間を設けることを強く勧めたいと思います。さらに言わせていただくと感情的な指摘ではなく、建設的に指摘しあえる環境づくりが肝要かと思います。本人さんの中で、仕事はしたいけれど、なかなか続かないという方がいます。こういった対応をしていくと働き続けられる方々が増えるのではないでしょうか。

大事なことは仕事でミスをしないことよりも、同じミスをしないこと、そのミスを本人が反省して、周りも指摘して繰り返さないことです。ミスをしないのではなく、ミスをしても安心して働き続けられる雰囲気作りや環境を作っていきたいですね。