うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(後編)

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うつ病
認知行動療法
2021/11/3
2021/11/1

うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(後編)

うつ病の治療を受ける中で、”認知行動療法”という言葉を聞いたことがある方もいると思います。
前編では、認知行動療法について基本的な考え方について解説していきました、後編である本記事では、認知行動療法を始めるにあたっての注意点、集団認知行動療法の進め方について考えていきたいと思います。

 

認知行動療法とは

前編の復習となりますが、厚生労働省では、認知行動療法cognitive-behaviortherapy(以下CBT)は、出来事―自動思考―感情―行動の相互関係に注目しており、認知(現実の受け取り方やものの見方)に働きかけて、心のストレスを軽減していく治療法と説明しています。

私たちはなにか”出来事”(A:Activating)が起こると、”結果”(C:Consequensce)が生じると考えることが多いと思います。しかし、実際はA→Cの間にその人固有の”信念”(B:Belief)が関与することで結果は異なっているという考え方です。つまり、出来事(A)をどのように捉え(B)、どのような行動をとるか(C)は個人によって異なるということです。

CBTでは、うつ、不安、怒りなどの情動に関連した症状に伴うこころのつぶやきに気づき、適応的な思考に修正をする手助けをすることに重点を置いています。
自動的に生じるこころのつぶやきを意識的に自覚し、コントロールできるようにするという目標のために、「自分が考えていることを考える」ことを取り組みます。

 

CBTが効果的な理由

うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(後編)

では、うつ病治療にCBTが効果的な理由について考えていきたいともいます。

①エビデンスが認められている
もともとCBTは、うつ病に対する精神療法として開発され、効果、再発予防効果を裏付けるエビデンスが多く報告されています。また、厚生労働省でも治療者への実践マニュアルや、患者さんのための資料が掲載されています。

②特別な道具を必要としないこと
紙とペン、またはスマートフォンやPCがあれば実施可能となります。特別な道具を必要としないことは、実生活に取り入れやすいため(般化)お勧めです。

③薬物療法以外の治療法であること
いくら良い薬でも飲み続けることができなければ意味がありません。薬の副作用は飲んでみないとわからないことがあります。どれくらい生活に支障があるかも大切です。薬が合わないときの選択肢としてCBTがあることは大きなメリットと言えます。

以上のように、うつ病治療に効果的なCBTですが、CBTを実施するにあたり、効果を得るために患者さん自身に考慮していただきたいことがあります。

①本人の治療への主体性が必要
認知行動療法を受けるにあたって大事なことは、ご本人が主体的に取り組むということです。「自分の困りごと」についての第一の専門家となるのは自分自身となります。もちろん医学の専門家などのアドバイスもありますが、他者と協力して進めていくという考え方がCBTを効果的に進めるために必要です。

また、人によってはそれまでの考え方や行動を批判されているように感じてしまうこともあるかもしれません。他者の意見を聞いて、それを受容し、考えや行動を変えることが難しい場合、治療がうまく進まないこともあるかもしれません。

②時間を要する
上記でも触れていますが、CBTは、それまでの自分の考えや行動を変容していく療法となりますので、すぐに効果を得るということは難しいです。

③生活の中で実践すること
時間を要することとつながっていますが、生活に般化させていくことが重要となります。CBTを受けたからと言ってすぐに自分でCBTができるようになるというわけではありません。講座でのホームワークなどを駆使しながら、CBTの考え方を持って、自分の生活に落とし込んでいくことが大切です。講座が終わった後も、生活の中で使い続け、気づきを深めていくことができるとよいと思います。

 

認知行動療法はどこで受けられるのか

実際にどのように認知行動療法を進めていけばよいのでしょうか。
最近ではホームページが充実してきていますので、検索してみるといいと思います。インターネットが難しい場合は、保健所など、近くにある自治体の相談機関にご相談ください。
近隣の精神保健福祉センターや保健所、病院等で紹介してもらう方法があります。
また、ウェブサイトとアプリになりますが、大野裕先生監修の『こころのスキルアップトレーニング』をお勧めしています。
これは、個別で進める認知行動療法になりますが、動画等のコンテンツを使いながら「具体的なストレス対処法」を練習できる会員制サイトになります。

認知行動療法活用サイト「こころのスキルアップ・トレーニング(ここトレ)」
https://www.cbtjp.net/

 

集団認知行動療法のすすめ

うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(後編)

認知行動療法は、個別と集団がありますが、私は特に集団認知行動療法をお勧めしています。
私が勤務している東京リワークセンター、慶應大学病院では集団認知行動療法を行っています。東京リワークセンターでは、月に2回、20~30人、慶應大学病院では毎週5人ほどのサイズで行っています。プログラムでは、より効果を高めるために意見を交換する時間を多く作っています。

認知行動療法の目的は、認知行動療法の技法を持って、自分のつらい状況を解決していくことなります。個別の認知行動療法の方が適しており、状態がよくなり回復につながることもありますが、集団認知行動療法では、様々な意見を聞く中で、自分自身の考え方のバリエーションを増やすことができるということが大きな強みとなると私は考えています。
例えば下の写真をみてください。

うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(後編)

「この写真をみてどのように思いましたか?」この問いでグループごとに話し合ってもらうだけでも様々な意見が出てきます。
「聴衆の前で講演をしている場面」「手品をしようとしてしらけている場面」「聴衆はすべてパネルで、動画撮影をしている場面」など。

認知行動療法の基本的な考え方でいうと、”写真”という出来事(A)は皆同じですが、私たちそれぞれの信念(B)によって、写真の解釈(C)は変わっているのです。

写真一つとっても、信念の違いにより、同じように解釈することは難しいということが実感できます。このような実際の体験を通して、認知の違いを体験できることが集団認知行動療法の強みであると考えます。

 

まとめ

今回は認知行動療法について考えました。
特に集団認知行動療法を行うと様々な考えを聞くことができ、私自身も学びがたくさんあります。様々な意見を聞くことによって自分の考えを広げ、それに伴い行動の選択肢も広がっていきます。
大野裕先生は、CBTを開発したベック先生に師事されており、よく以下の話をされます。ベック先生は「肌で体験する」ことを常に強調していたとのことです。

CBTは頭の体操ではなく、体験から学ぶことが大切なのです。これを読んでいる方も、出来ることからでいいので、体験を大切にしていきましょう。