適度な運動が精神障害の改善に効果的な理由と事例

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2021/6/28
2021/6/7

運動とメンタルヘルスの関係については近年様々な研究を通して関連が指摘されています。みなさんも運動をしてすっきりした、気分がよくなったという経験があると思います。本記事では、運動がメンタルヘルスの改善につながるメカニズムや実際にどんな運動がオススメなのかをご紹介いたします。

 

 

運動がメンタルヘルスを改善するメカニズム

適度な運動が精神障害の改善に効果的な理由と事例

運動が心や体に良い影響を与えることは皆さんも感じていると思います。実際にどのようなメカニズムでよい影響が作用しているのかを3つの項目を用いて説明していきます。

 

1.ストレス耐性の向上

ストレスは、何らかの要因(ストレッサー)によって引き起こされる、身体の防衛(適応)反応とされています。私たちはストレスという言葉から、何か嫌なことや辛いことを想起しがちですが、自分にとって好ましいことによってもストレス反応は引き起こされています。
例えば、どの服を着るか選ぶとき、運動で筋肉を動かすとき、英語の勉強をしているとき、失業してしまったときなど。これらは、それぞれの要因によって何らかのストレス反応が生じる点では同じなのです。ストレッサーとして運動を考えると、比較的負荷量を調整しやすいことが特徴といえます。
そして、脳はストレスにさらされると神経が傷つきます。しかし、傷んだ神経は回復し、太く・傷つきにくくなることがわかっています。過度なストレスは脳の神経を傷つけ、脳のつながりを切断してしまいます。しかし、適度なストレスにさらされると、回復によってより丈夫な神経を作り、ストレス耐性が向上することが期待できるのです。

  1. ストレス耐性を向上させるには脳の神経を鍛える必要があること
  2. 運動はストレスの負荷量が調整しやすいこと

このことから、運動はストレス耐性を向上させることがわかります。

 

2.不安の減少

不安は、精神医学的では「対象のない恐れの感情」と定義されています。病的な不安は、理由なく生じ、あったとしても不釣り合いに強く、原因を取り除いても続くなどの特徴があります。

不安は運動をすると減少することが様々な研究を通してわかっています。
さらに、運動強度の差異は、不安減少に影響があることが指摘されています。

チリの高校生を対象に、週3回90分激しい運動をさせたグループと、週1回90分通常の体育の授業を受けたグループで比較をしました。激しい運動をしたグループは14%不安度が下がった(後者はわずか3%)という研究結果が出ています。
つまり、激しい運動をした方が不安は減少しやすいということがこの研究からわかったのです。これは、心拍数や呼吸の変化が必ずしも不安からくる発作が原因ではないという経験ができるためであると考察されています。
激しい運動をすると心拍数や呼吸が上昇するなど、発作時と同じ症状が出ますが、少し休めば症状は収まります。このような経験を繰り返し、脳に「危険な状態ではない」ことを教えているのです。また、有酸素運動を行うことで体全身の緊張がほぐれるため、不安感が下がることも示唆されています。

さらに、運動によって脳内物質のセロトニンが増加することが明らかになっています。
これはセロトニンの構成材料となるたんぱく質や、セロトニンを増やす脳由来神経栄養因子(BDNF)が運動によって増加するためです。セロトニンは気分、不安、衝動、学習、自尊心にとって重要な物質です。これらが増加することで私たちの安心感が高まるのです。

セロトニンとセットでよく紹介される脳内物質としてメラトニンが挙げられます。
メラトニンが正常に分泌されることで睡眠リズムが安定します。このメラトニンの分泌にかかわっているのがセロトニンなのです。つまり、運動をしてセロトニンの分泌を増やすことは、睡眠の質を上げていくことにもつながっているのです。

 

3.抗うつ効果

次にうつへの効果について考えたいと思います。
神経生物学的にうつ病の原因は、情報
を伝達するための神経伝達物質のバランスの乱れ、脳由来神経栄養因子(BDNF)の低下、炎症性物質の増加など、様々な要因が絡み合って生じていると言われています。また、うつ病では、記憶や注意にかかわる海馬の体積が減少していることがわかっており、これは部分的な神経新生の減少を示唆しています。

様々な動物実験を通して、運動により脳の神経新生が増加し、抗うつ効果の発揮につながる可能性が考えられています。

また、私たちの感情は脳の様々な機能が相互に作用して作られています。そのため、神経伝達物質が減ると脳の伝達がうまくいかず、感情のコントロールも難しくなります。運動はこの神経伝達物質の分泌を増やし、脳のつながりを修復できることがわかっています。
また、うつ病では、神経新生の減少から記憶や注意力など認知機能が低下するといわれています。現在では、運動と認知機能の関連の効果は、ありとするものから、なしとするものまでさまざまです。

うつ病との関連については、「うつ病の予防・改善には適度な運動がおススメな理由」で言及していますので、気になる方はそちらもご参照ください。

 

どんな運動が精神障害の改善に役立つのか

適度な運動が精神障害の改善に効果的な理由と事例

さて、運動が精神障害に効果的であるメカニズムをご説明しました。では、実際にどのような運動をしたらよいのかをご紹介していきます。

運動とメンタルに関する研究では、アメリカで100万人規模の研究が行われています。この調査では、対象者の「精神的に健康に過ごした日数」を運動の種類で比較しています。結果は、運動を行っている人の方が、精神状態が良い日の割合が40%多かったことが明らかになっています。

さらに、運動の種類では、チームスポーツを取り入れている対象者のメンタルヘルスの負担の軽減度が最も大きいことがわかりました。
つまり、運動をした方が精神的に健康に過ごすことができ、特にチームスポーツの効果が大きいことが言えるかと思います。ここでは、チームスポーツによる人との交流がメンタルヘルスにさらに良い影響を与えているのではないかと考察されています。

今回、チームスポーツの中でも私はバスケットボールをお勧めしたいと思います。
バスケットボールは、学校の体育館はもちろん、近所の公園など比較的場所を選ばず始めることができます。また、道具は、ボールさえあれば準備に手間はかかりません。

さらに、チームスポーツでありながら、シュートやドリブルなど一人でできることもたくさんあります。東京リワークセンターのメンバーの中にも朝早く起床し、一人で公園に行き、シュート練習している方がいます。疲労感はあるはずですが、毎日すっきりとした表情でプログラムに参加しています。

ここで、私も東京都の地域推進委員をやっている日本ソーシャルバスケットボール協会をご紹介いたします。こちらは、精神障がい者を対象としたバスケットボール競技を統括する団体として、精神障がい者バスケットボール競技の普及・振興を図る活動を行っています。大会の運営や、交流会の企画なども行っていますので、興味のある方はぜひ下記のサイトもご参照ください。

交流会情報 | NPO法人日本ソーシャルバスケットボール協会 (fc2.com)

さらに東京都世田谷で病気の有無は関係無しで、3X3のクラブチームの運営もしていますので、そちらも参考にしてみて下さい。

まずは運動する機会を作っていくことが必要かと思います。一人で始めた方が取り掛かりやすい方であれば、ランニングやウォーキングから始めるのもよいかもしれません。

誰かと一緒の方が続けやすい方であれば、友達や職場、スポーツジムでチームを組んでみたり、SNSで募集をしているところもあります。またこれを機にジムに通ってみるのもよいかもしれません。手軽にできそうなもの、ご自身が興味のあるスポーツから始めてみましょう。

 

 

まとめ

今回は運動が精神障害を改善するメカニズムや実際にどのような運動がよいのかをご紹介いたしました。
運動は心身へのメリットが大きく、デメリットがほとんどないことがわかります。
メンタル面だけでなく、脳の機能そのものに運動は作用しています。メンタルの不調で悩んでいる方は、ご自身が気軽にできそうな運動をぜひ生活に取り入れてみてください。運動習慣を取り入れることで症状が改善されるかもしれません。