うつ病の予防・改善には適度な運動がオススメな理由

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2021/5/1
2021/6/10

うつ病の予防・改善には適度な運動がオススメな理由

はじめに

今やメンタルヘルスの不調、特にうつ病は社会の大きなテーマになっていると思います。今回は、うつ病の予防や改善のための運動について考え、運動を行った方が良い理由や、実際にお勧めする方法をご紹介いたします。

 

コロナ禍でうつ病は増加傾向にある?

コロナ禍以前からうつ病患者は年々増加傾向にありました。
また、2020年の全国の自殺者数は、11年ぶりに増加し、2019年の確定値から750人増加しています。特徴としては、女性の自殺者数が大幅に増えていることです。
男性は11年連続で減少傾向となった一方、女性は過去5年で最多となりました。
総務省の労働力調査によると、2020年の3月から5月にかけて女性の雇用者数は74万人減少しており、減少数は男性の2倍以上となっています。これは、非正規雇用者が女性に多いことが要因とみられています。
また、内閣府は2020年5~6月に新型コロナの感染拡大前後を比較した生活満足度を調査しており、子育て環境について、家族と過ごす時間が増えた女性は、男性と比べ満足度がより低下していることがわかりました。また、東京都健康長寿医療センターなどのチームは、女性の自殺率増加の要因として、家庭で過ごす時間が増え、母親に過度な負担がかかったことを一因として挙げています。これらの調査より、雇用など先行きへの不安や、子育て等の生活環境の変化が、特に女性の心理的に負担になっていることがわかります。このことからみても、うつ病は増加傾向にあると思われます。

 

 

運動をするとうつの症状が改善するメカニズム

さて、ここでひとつ思い出してみてください。皆さんは、運動をしているきに、「もう会社をやめてしまいたい」、「死にたい」というネガティブな考えが浮かぶことはありましたか?ほとんどの方は運動中にそういった考えが浮かぶことは少ないでしょう。

これは、運動をしているときの脳の働きに関連しているといわれています。運動時は全身、特に脳に酸素をたくさん含んでいる血液を運び、脳が運動継続できるようにする指令を出しているのです。脳はネガティブなことを考えるとパフォーマンスは落ちてしまうことを知っています。そのため、運動時は、ネガティブなことは考えられないよう生物的な脳機能になっています。

どのくらい運動をしたらいいのか
では、実際にどんな運動を、どのくらいしたらいいのかという疑問が浮かぶと思います。まずは、わが国で定められている1週間で必要な運動強度ついて説明いたします。

厚生労働省が提示した「健康づくりのための身体活動基準2013」では、「強度が3Mets以上の身体活動を23エクササイズ行う」と基準を定めています。
METsという単位は、静かに座った状態を1として、その運動は何倍のエネルギーを消費するのかという強度を示しています。そして、Exerciseとは、「METs×活動時間」で求めることができます。

1METs×1時間=1Exerciseとあります。
ここで注意が必要なことがあります。厚生労働省では、活発な身体活動を一週間で23Exercise取り入れることを推奨しています。簡単に言いますと“日本にいる大人は23Exerciseをしないと健康とは言えませんよ”ということです。3METsの運動とは、実際どのような活動を指すのでしょうか。下の図をご覧ください。

うつ病の予防・改善には適度な運動がオススメな理由

【出典:健康づくりのための運動指針2006:厚生労働省(2006)

例えば、歩行だけで23エクササイズを確保しようとすると、20(分)×23=460分となり、1週間で約8時間の歩行が必要となります。つまり、ウォーキングや散歩だけでは、なかなか達成が難しいことがわかります。
こうしてみてみると、厚生労働省が健康を保つために推奨する運動量を確保できている人はあまり多くないのではないでしょうか。
さらに厚労省は息のあがる運動についても推奨しています。
運動が大切なことがわかってきたと思います。

しかしながら、激しい運動をたくさん頑張ればいいのかというと、そういうわけでもありません。Chekroudら(2018)の運動とメンタルに関する研究の考察では、運動時間が1週間で6時間を超えると、メンタルヘルスが悪化すると述べています。また、筋トレの強度について調べた研究では、70~80%程度の負荷の筋トレをした際の気分の落ち込みが少ないことが報告されています。つまり、やりすぎはかえって心的ストレスを高めたり、身体的疲労感にもつながったりするようです。最終的には、週3回30分程度、70~80%(少し息が切れる)程度の運動習慣が身につくとよいとされています。

 

うつ病予防・改善におすすめの運動とは?

では、実際に私が患者さんにお勧めしている運動を2つご紹介いたします。

1つ目は、「インターバルラン」です。私が推奨しているのは、ウォーキングとダッシュの組み合わせです。“ダッシュをして、疲れたら歩く、また回復したらダッシュをして、歩く”を繰り返します。ダッシュは、短時間で心拍数を高める役割と、筋肉への刺激を高める役割が見込めます。これを、ウォーキング(回復)を交えながら繰り返すことでより効果的な運動となります。私は、指導する際は、開始当初は走る時間は5秒程度、歩く時間は10~15分程度と緩く決めて勧めています。また他の専門家ではウォーキングではなく、ジョギングを勧める場合もあるかとは思いますが、導入しやくするために、敢えてウォーキングから始めてもらいます。注意したいことは、走ったり、歩いたりを繰り返すので、道路脇の歩道ではなく、公園などのランニングコースや河川敷の道を使うことを薦めています。

2つ目としては、可能であれば集団スポーツを行うこともとても効果的です。
私も運動プログラムとして、毎週フットサルやバスケットボール、アルティメットを行っています。Chekroudら(2018)の運動とメンタルに関する研究では、運動を行っていない人より、行っている人たちのほうが精神状態が良い日の割合が40%高く、特にチームスポーツでメンタルヘルスの負担の軽減度が高いというデータがあります。運動を通して他者と交流したり、コミュニティを作ったりすることがメンタルヘルスの不調の予防につながることが考えられます。

 

運動をする際の注意点

うつ病の予防・改善には適度な運動がオススメな理由

運動を行う際の注意点としては、心身の状況を確認することが挙げられます。関節や筋肉など、痛みがある場合は無理して続けないこと、血圧の基準を考慮することです。上述したように、70~80%程度の運動負荷が良いとされています。運動もやりすぎは、かえってメンタル不調につながるというデータもありますので、ご自身が気持ちいいというところでやめることが安全面からも継続面からも大切なことだと思います。

 

まとめ

①一週間で23Exerciseを目標にすること
②一週間で息のあがる運動を小一時間行うこと

運動は心身ともにとても効果が大きく、服薬で心配されるような副作用がないことが利点として挙げられます。手間なのは、運動をするための服装の準備、運動後の洗濯、場所の手配などが挙げられるかと思います。しかし、公園でも、河川敷でも、自宅でも、手軽に運動を始めることはできます。1週間に必要な運動強度についても触れましたが、まずは手軽にできること、ご自身の興味のあるスポーツをやってみることが大切かと思います。

冒頭でもお話ししましたが、女性の自殺率が高まっているということで、コミュニティを作ることが大切であると言えます。運動を通してコミュニティを作ることがうつ病予防に寄与しているのではないでしょうか。