うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(前編)

復職後にお悩みの方
うつ病
認知行動療法
2021/11/1
2021/11/1

うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(前編)

うつ病の治療を受ける中で、”認知行動療法”という言葉を聞いたことがある方もいると思います。
今回の記事では、認知行動療法について基本的な考え方について解説していきたいと思います。また、後編では、認知行動療法を始める際の注意点や、集団認知行動療法の進め方について考えていきたいと思います。

 

認知行動療法とは

厚生労働省では、認知行動療法cognitive-behaviortherapy(以下CBT)は、出来事―自動思考―感情―行動の相互関係に注目しており、認知(現実の受け取り方やものの見方)に働きかけて、心のストレスを軽減していく治療法と説明しています。

私たちは”出来事”(A:Activating)が起きると、”結果”(C:Consequensce)が生じると考えることが多いと思います。しかし、CBTでは、実際はA→Cの間にその人固有の”信念”(B:Belief)が関与することで、結果は異なっているという考え方をしています。つまり、出来事(A)をどのように捉え(B)、どのような行動をとるか(C)は個人によって異なるということです。

CBTでは、うつ、不安、怒りなどの情動に関連した症状に伴うこころのつぶやきに気づき、適応的な思考に修正をする手助けをすることに重点を置いています。自動的に生じるこころのつぶやきを意識的に自覚し、コントロールできるようにするという目標のために、「自分が考えていることを考える」ことを取り組みます。

うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(前編)

 

CBTのターゲット

生活をしていくうえで、出来事(A)を自分でコントロールすることは難しいと思います。しかし、起きた出来事をどのように捉え(B)、行動するか(C)は私たち自身が行っています。よって、CBTのターゲットとなるのはB、Cとなります。それでは、ターゲットとなるB、Cについて詳しく見ていきましょう。

 

こころのつぶやき(B)

うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(前編)

こころのつぶやきは、自動思考とも呼ばれます。何か出来事が起きた際や、その出来事を思い出した際に、心の中ですばやく通過する認知のことを言います。うつ状態の方は、この”こころのつぶやき”に特徴的な偏りが多くみられることがわかっています。以下に厚生労働省で取り上げている、代表的な認知の偏りを紹介します。

①感情的決めつけ
定義:証拠も無いのにネガティブな結論を引き出しやすいこと。「○○に違いない」例:取引先から一日連絡がない→「嫌われた」と思いこむ

②選択的注目(こころの色眼鏡)
定義:良いこともたくさん起こっているのに,些細なネガティブなことに注意が向くこと。例:必修科目の単位が取れなかったので、自分の将来は閉ざされた。

③過度の一般化
定義:わずかな出来事から広範囲のことを結論づけてしまうこと。
例:一つ上手くいかないと、「自分は何一つ仕事が出来ない」と考える。

④拡大解釈と過小評価
定義:自分がしてしまった失敗など、都合の悪いことは大きく,反対に良く出来ていることは小さく考えること。
例:たまに上手くいくこともあったけれど、自分の人生はほとんど失敗だった。

⑤自己非難(個人化)
定義:本来自分に関係のない出来事まで自分のせいにして考えたり、原因を必要以上に自分に関連づけて、自分を責める。
例:母親の機嫌が悪い。きっと自分に怒っているのだろう。

⑥”0か100か”思考(白黒思考・完璧主義)
定義:白黒つけないと気がすまない、非効率なまで完璧を求める
例:取引は成立したのに、期待の値段ではなかった、と自分を責める

⑦自分で実現してしまう予言
定義:否定的な予測をして行動を制限し、その結果失敗する。そうして、否定的な予測をますます信じ込むという悪循環。
例:「誰も声をかけてくれないだろう」と引っ込み思案になって、ますます声をかけてもらえなくなる

CBTでは、上記のような思考、信念が気分や行動に作用し、健康的な行動をとることが難しい場合に修正を図っていきます。正解を見つけたり、誰かの意見に合わせたりするということではなく、適応的な思考を取り入れることで、自分を苦しめている思考に気づくことがポイントとなります。

 

行動(C)

うつ病の改善に有効な認知行動療法とは?(前編)

こちらは、「行動を変えて、気分を変える」という考え方になります。私たちが1日にとることができる行動の量は一定と言われています。
その中で私たちは”健康行動”と”回避行動”をとっています。健康行動とは、達成感ややりがい、楽しさを感じられる行動です。一方、回避行動とは、やるべきことを後回しにするなど、長期的にはプラスになりませんが、短期的には楽な行動を指します。

例えば、本当は締め切りが近い仕事をやらなければいけないのに、いつまでもスマホをいじってしまうというように、やらなければいけないことを先送りにする経験は誰にでもあるのではないでしょうか。注目していただきたいのは、その後の自分の気分になります。
やるべきことをやらない自分を責めてしまうなど、ある行動をとった後に気分が低調になる、後悔してしまうなどの場合は、その行動は、回避行動に当てはまります。私が診ている休職者は、回避行動の量が多く、自分をさらに苦しめている方が多いです。

行動にアプローチしていく方法としては、①健康行動を増やす、②回避行動を減らすという視点があります。まずは、1日の行動をできるだけ細かく具体的に(時間や内容など)抽出し、行動パターンを分析していく作業が大切です。その中で増やせる行動、減らせる行動を具体的に計画していきます。しかし、一般的に良い行動とされている行動をとっても、気分がむしろ落ち込んでしまったりする場合もあるかもしれません。

大切なことは、成功もすれば、失敗もするといういわゆる実験的な態度で、自分に合っている行動を探していくというスタンスです。行動をとった後に、自分がどのような気分になったのかをきちんとモニタリングし、今後も自分の生活に取り入れていくのか、取り入れない方がよいのか検証していく必要があります。

 

まとめ

今回は、認知行動療法の基本的な考え方について学びをすすめました。どんな治療法でもいえることですが、合う・合わないは誰にでもあります。

もし、この記事を読んで、CBTに興味を持たれた方は、関連書籍を手に取ってみたり、通院先に相談してみたりしてください。後編の記事では、認知行動療法を集団で行う強みについて考えていきます。そちらもぜひ読んでみてください。