強いストレスがかかった時に、ストレスを強く感じてしまい心が折れやすい人と、ストレスは感じながらも適応していける人との違いは何でしょうか?
誰にでも強いストレスを感じる状況に遭遇することはありますが、それを乗り越えるには、ストレスがある状況への適応力、づらい状況から回復していく力=「レジリエンス」にヒントがあります。
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レジリエンスは、自分にとってストレスになることや、難しい状況に直面した時に、つらい気持ちを感じながらも、状況に適応し、立ち直っていける過程や能力、結果を指す言葉です。精神的回復力とも言われます。
レジリエンスは、元々物理学の言葉で、「外からの圧力を跳ね返す力」という意味です。そこから派生して、心理学の分野で、心理的な傷つきや落ち込みから立ち直る「回復力」という意味で使われるようになりました。
ストレスに強い人というのは、このレジリエンスの力があると言えるでしょう。
例えば、ガラスのボールを落としたら割れてしまいますが、スポンジでできたボールであれば落としても割れず、多少凹んでも元に戻ることができます。
人の心も同じような仕組みになっていて、心が柔軟性を持っていれば、状況に応じて自分自身や物事の捉え方を変えることによって乗り越えることができます。「しなやかさ」と言い換えることもできます。
レジリエンスと反対の意味を表す言葉として「脆弱性」というものがあります。先ほどのガラスのボールのように、硬く、柔軟性がない状態で、刺激が加わると壊れやすい状態です。
心が硬いというのは、考え方が硬いということです。
この硬さは、自分でも性格として真面目で律義である、など認識できている場合もあれば、自分では無意識で「ちゃんとしなければ」「失敗してはいけない」という思い込みがあったり、「人からどう見られるだろう」など他者を気にしがちであることなどが上げられます。
そのような思い込みがあると、思いがけない状況が目の前に表れた時に、客観的に自分や相手・状況を捉えて、適切に自分を変化させて適応することができません。
気持ちもネガティブになってしまいますし、我慢してその場にいようとしても、強い苦痛を感じて、やがて限界が来た時に心が折れてしまうことにつながります。
脆弱性とは、もともと生まれ持った特徴と、生まれ育った環境が相互に作用して決まる心の素質です。この脆弱性と、その人の限界を超えるストレスが組み合わさった場合、非常にストレスの高い状態となり、対応が難しくなってしまうのです。
ただ、脆弱性=ストレスに弱いというわけではありません。
もともと持っている脆弱性が高かったとしても(心が折れやすい特徴があったとしても)、レジリエンスが高ければ、少々強いストレスがあっても状況に適応し、回復できます。
そしてレジリエンスは誰でも学習することで身に付け、さらに発展させることができるとされています。脆弱性を持つ敏感な人であっても、今から高めることは可能なのです。
レジリエンスは、「新しいことを求める気持ち」「自分の気持ちや行動をコントロールする力」「肯定的な未来志向」という3つの要素によって成り立っています。
好奇心を持って意欲的にチャレンジする主体性につながっていく要素です。自分が今いる場所に留まらず、自分の枠の外に出ていこうとする力を指します。
ストレスのある状況下でも、自分の気持ちをコントロールして落ち着かせることができ、自分にとって居心地のよくない状況であっても過度な無理なくその場に合った行動をとったり、適切な気分転換ができる力です。
これは「我慢」とは違い、自分の心のありようと状況のバランスをとっていける力を指します。ずっとその場に居続けられなくても、必要な休息をとりながら状況に適応できる、というようなことです。
未来に向かって希望を持ち、そのために自ら努力したり行動できる力のことです。何でも楽観的に考えてなんとかなる、というのとは少し違い、主体的に未来を作っていく姿勢を指します。その気持ちを持てることで、前に進もうという気持ちになり、困難な状況から逃げなくても乗り切ることができます。
この3つの要素をバランスよく自分の中で育てていくのが、レジリエンスを向上させる近道です。しかし、いきなりこれら全てを身に付けようとするのは難しいことですし、自分ひとりで取り組むのは難しいことです。
時には医師やカウンセラーの力を借りたり、本を読んで知識を増やしたり、レジリエンスの高いと思う人の考え方や行動を真似していく中で、徐々に自分の力になっていくものです。
まず最初は、地道ですが、ストレスのある状況になったときに「あ、今自分は脆弱性が顔を出して、対処しきれない状況だな」と認識できるのが第一歩です。
自分が脆弱性が高く、ストレスに弱い人間だなと感じることがあるとしても、それが「悪いこと」ではありません。自分にあったレジリエンスの形を身に付けることで、脆弱性を持ったままでも、よりしなやかに自分らしくいられるマインドを身に付けることで、楽に生きられるようになります。
レジリエンスは、後天的にいつからでも身に付けていけるものです。
最初は、自分が苦手とすることを身に付けるのはハードルが高く感じるかもしれません。
けれど、レジリエンスを身に付ける過程では、自分をジャッジしないことが大切です。傷ついたらだめ、できなかったらだめ、ではありません。
逆に、ストレスがかかっている時こそ「今つらい気持ちなんだな」と受け止めることで、自分の安心安全を作ることができ、自分の枠を超えて未来に向かって進んでいくことができます。一人で難しい場合は、主治医や身近な人に相談してもよいでしょう。それもレジリエンスの1つです。
落ちても割れないスポンジのボールをイメージしながら、焦らずに身に付けていってくださいね。
参考: ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性–精神的回復力尺度の作成 中谷素之・金子一史・長峰伸治(2002)