精神障害を抱えている方が起こしがちな仕事のミスの傾向とは?(前編)

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精神障害
2021/5/18
2021/5/18

精神障害を抱えている方が起こしがちな仕事のミスの傾向とは?(前編)

仕事をする上でミスを防ぐことは難しいものです。しかしながら、ミスが発生する要因を分析したり、その対策を立てたりすることでうまく防ぎ、損害を少なくすることは大切なことです。

今回は認知機能にフォーカスを当て、精神疾患を持っている方の、仕事で起こりがちなミスとその対策を前後編に分けて考えていこうと思います。前編では、認知機能について触れ、精神疾患を持っている方の特性やミスを生じさせやすくする環境について説明いたします。

 

 

認知機能とは

精神障害を抱えている方が起こしがちな仕事のミスの傾向とは?(前編)

認知機能とは、“自己と自己を取り巻く世界を理解し、学習し、概念を作る要素全般にかかわる機能。外界からの情報を知覚、加工、貯蔵し、それらを利用するための情報処理過程のことです。これらが障害されることを認知機能障害と言います。”

簡単に言いますと、何かを判断したり、考えたり、記憶するのに必要な脳の働きのことを指します。この働きが障害されることを認知機能障害といいますが、これは、精神疾患とも関連があるといわれています。では、認知機能について大きく4つの機能に分けて説明します。

①知覚機能

知覚機能とは、“五感(視覚、触覚、聴覚、嗅覚、味覚)から取り入れられた刺激を過去の記憶と照らし合わせ、どのようなものかという判断する機能”を指します。例えばある動物の鳴き声を聞いた時に、過去の記憶の中から同じような鳴き声と適合させて、その動物を特定するときに機能します。

②注意機能

注意機能とは、“刺激に焦点を充て、その刺激を処理するまで集中し、それを記憶課程に送るまでの機能のこと”です。この機能が低下すると、注意を配れる範囲が狭くなり、集中力の持続時間が短くなることがあります。

③実行機能

実行機能とは、“目標を設定したり、目標に向けて計画を立案したり、実行、問題解決を図るのに必要な機能“を指します。この機能が低下すると、判断がつきにくい曖昧な状況に弱くなります。注意機能とも重なってくる部分ではありますが、目の前の複数の課題に対し、どれをやっていいのかわからないといった状況に陥りやすくなります。

④記憶学習機能

記憶学習機能とは、“情報を様々な方法で学習し記憶する機能”を指します。この機能が低下すると、記憶できる範囲が狭くなったり、新たな情報を得た際に覚えるべき事柄を記憶しにくくなったりします。
また、感情的な負荷がかかると学習効果が下がることもわかっています。例えば失敗をして注意をされた際に、『怒られた~。』と注意されたことにばかり気をつかってしまい、今度は怒られないようにしようという考えが働くためです。“怒られないために”という感情が先行してしまい、失敗を経験として活かせず、同じ失敗を繰り返してしまいます。

⑤社会認知

社会認知とは、“感情や表情の認知、社会的状況の理解をすることを指し、相手の気持ちを理解したり、察したりする機能”のことです。また、自分自身の言動について客観的な分析を行う力もこの社会認知に含まれます。

 

 

精神疾患を持っている方が苦手なこと

精神障害を抱えている方が起こしがちな仕事のミスの傾向とは?(前編)

続いて精神疾患を持っている方に多い苦手なことや、環境について説明します。自分の置かれている環境が仕事のミスをさらに引き起こしやすい状況になってしまっている可能性もありますので、次のことを参考にしてみてください。

①視線や言葉を必要以上に重く受け止める

精神疾患を持っている方に多い特性として、ネガティブな感情がその後も残りやすいという傾向があります。
例えば、ご本人が上司から叱責を受けます。その後自席で作業をしているときに上司と目が合います。この時に上司が自分を睨んでいる、監視されていると感じてしまう方がいます。上司としては心配で様子を窺っていただけでしたが、本人としては、「また怒られるんじゃないか」という風に必要以上に重く受け止めてしまうことがあります。
こうなると、怒られたというネガティブな感情が残り、そのことにばかり意識が向いてしまい、業務に集中できず、さらなるミスを引き起こし、生産性・効率性が下がるという悪い循環になってしまう場合があります。

この記事を読んでいる人の中に、もし、精神疾患を持っている方が部下にいるという方がいましたら次のような関り方をしてみてください。
“初めに本人のできたことはできたとフィードバックをします。次にできなかったことについては、注意したいという感情は一旦置いておいて、今後はどうしていくのかという、建設的な問題解決を図っていくこと”が良いと思います。
建設的に説明をしたつもりでも、本人さんは自尊心が傷ついていたり、へこんだりしていることがあるようです。本人としては大きく動揺しているうえで指摘を聞くことになります。そこで怒鳴り声で注意をすると、本人さんはうまく判断したり、考えたりすることができなくなってしまいます。冷静に伝えたとしても、思っている以上に本人さんは深刻に考え込んでしまうという特性があることを知っていただけるとよいかと思います。

②共感すること

人によっては共感や気配りが苦手なことがあります。
いわゆる空気を読んで動く、相手の立場になって物事を考えることが難しいことがあります。共感が苦手な場合、実際に言われた業務しかしないことがあります。極端な例かもしれませんが、業務は問題なく行うが、手が空いていても電話に出なかったり、目の前にある消耗品の補充をしなかったりすることがあり、しばしば職場の人間関係でトラブルを引き起こしてしまうことがあります。

③複数の指示系統

指示系統が複数あり、誰に何を聞けばよいのかが曖昧な状況が苦手な方もいます。
色々な人からの指示が入り、混乱し、優先順位がつけられないことがあります。このような場合は、指示系統を明確にしておくことが大切です。この仕事に関しては誰の指示を仰げばよいのかを事前に確認、相談しておきましょう。
指示系統を明確にするだけで仕事がやりやすくなったり、速くなったりと力を発揮することもありますのでぜひ試してみていただきたいです。

④自己理解

自己理解とは自己洞察、自立、意欲といった自身を客観的に見る力のことを指します。自分が能動的に行っている言動について、自分自身で客観的な立場から調整したり、調和をとったりします。
これが苦手な方の中には、プライドと自信のなさのアンバランスさがみられるようになります。プライドはあるが、できない自分をなかなか認められず、そのできない活動自体を避けるような行動がみられることもあります。

有名な寓話“キツネとブドウ”と同じ状態ですね。以下、寓話を引用しております。

飢えたキツネが、ブドウ棚からブドウの房が垂れ下がっているのを見つけた。さっそく取って食べようとしたが、手が届かなかった。キツネはそこを立ち去りながらこう言った。「あれはまだ熟れていない」

自分の力で取ることができないブドウについて嘆くのではなく、ブドウをの価値を下げて自分を正当化するとう内容です。
さらに著者の戸田智弘氏は考察部分で「実生活でキツネと同様の経験をしたとき、私たちはどうするべきか。(中略)最良なのは、失敗した原因を追究し、次に同じようなことが起きたら成功できるように自己トレーニングを積むことだ」と述べています。(戸田智弘,ものの見方が変わる 座右の寓話)

⑤課題達成のための小さなステップを踏むこと

④自己理解の内容とも関連していますが、人によっては、結果だけを求めてしまい、プロセスについての考えを深めることが苦手な方がいます。
通常私たちは、プロセスを踏むことで、成功にたどり着くことを体験していますが、精神疾患を持っている方の場合、小さな失敗、成功を積み重ねることが難しいことがあります。そのステップを踏んでいくことが大切であることを学び、時にはつらいことも含めて仕事であることを認識する必要があります。

⑥複数課題

同時に複数の課題をこなすことが苦手な方がいます。
これは料理に例えるとわかりやすいと思うのですが、私たちは料理する時に、食材を焼いたり、茹でたりしている間に、他の食材を切ったりします。さらに茹で上がりの時間を逆算して他の作業に移ったりします。複数の課題を同時にこなしながら、一定の完成にむけて作業をこなしていきます。
精神疾患を持っている方の場合、切ること、茹でること、焼くことそれぞれは出来ますが、完成時間や調理の想定や同時の複数課題をこなすことが難しくなることがあります。

⑦時間的切迫

精神疾患を持っている方の中には、時間的に焦ってしまうと、途端に仕事のパフォーマンスが落ちる方もいます。同じ作業をしていても、時間の設定をするだけでいつも通りの力が発揮できないときがあります。

 

 

まとめ

今回は認知機能障害に焦点を当て、まずは、ご自身がどんな特性を持っていて、どんな環境だと疲れやすいのか、苦手だと感じやすいのかを、きちんと分析することが重要となります。
今回は苦手なことなどマイナス面に焦点が当たっていますが、人的、物質的な環境を整えることができれば、むしろマイナスと思っていた部分がプラスに転じ、仕事がしやすくなり、生活を送りやすくすることができます。

精神疾患を持っている方の特性や苦手な環境について説明いたしました。精神疾患の方がこれらに必ず該当するわけではないです。あくまで参考にしていただけたらと思います。
本記事の後編では、実際にどんなミスが生じやすいのかとその対策を載せていますので、良ければそちらも参考にしてみてください。

精神障害を抱えている方が起こしがちな仕事のミスの傾向とは?(後編)